2016/03/12

甲斐バンド #1 1978年、春

ひょんなことから甲斐バンドのツアーに参加することになりました。
1978年、21才の春のことでした。

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そのころぼくは『リンドン』という、福岡出身のバンドのドラマーだった伊藤薫さんと『Hot Menu』というバンドを結成して、メジャーデビューに向けてデモテープの制作に勤しんでいた。

その伊藤薫さんから、甲斐バンドのサポートメンバーのキーボーディストが急病のため、急遽代わりのキーボーディストを探しているのでオーディションを受けてみないか、という話をもらった。

その頃のぼくはプロのミュージシャンになってまだ日の浅い、駆け出しの若造だった。
お金は無いけれど時間だけはイヤというほどあった。
渡りに舟というわけでもないが、これはビッグチャンスとばかりに甲斐バンドのオーディションを受けてみることにした。

その頃の甲斐バンドは、すでに全国ツアーも行っている人気バンドだった。

オーディションの前に、事務所から参考資料のLPレコードとカセット音源が送られて来た。
ぼくは特に甲斐バンドの熱心なリスナーというわけでもなかったが、送られて来た音源の中には、知っている曲もたくさんあった。
中でも『氷のくちびる』や『ポップコーンをほおばって』は好きな曲だったので、一生懸命にコピーして練習した。

オーディションのため、後日指定された四谷のスタジオに行くと、甲斐バンドの楽器や機材が積み込まれている、4トントラックが駐車場に横付けされている光景を見て、ぼくの心拍数は一気に高まった。

緊張しながら楽器がセッティングされたスタジオの中に入ると、テレビで見たことのある甲斐バンドのメンバーと、事務所のスタッフとおぼしき人達がいた。

早速メンバーの方々を紹介してもらった。
やはりというか、中でも甲斐よしひろさんの醸し出す雰囲気は特別で、ぼくの緊張はさらに増した。

挨拶もそこそこに、早速何曲かセッションしてみようということになった。
最初に合わせた曲が何だったのかはよく覚えていないが、ぼくの好きだった『氷のくちびる』と『ポップコーンをほおばって』はリストの中に入っていた。

他にも何曲も演奏したと思うが、一曲はっきりと覚えているのが『ブラッディ・マリー』という曲だった。
この曲はちょっとアイリッシュの匂いがする、ロッド・スチュワートあたりが歌いそうな雰囲気の曲で、この曲をピアノで弾いていたら甲斐さんが横にやってきて「すごくいいね!もっと早く一緒にレコーディングしたかったな。」というようなニュアンスの言葉をかけてくれたのがとても嬉しかった。

全部で十数曲は演奏しただろうか、数時間後にずっと緊張しっぱなしのオーディションは終了した。
結果は後日ということで、ようやく緊張から解放されたぼくは、すっかり暗くなった四谷の街を駅まで歩きながら、吉報が届く事を信じて帰路についた。


  • 1978年、新宿御苑スタジオ(甲斐バンドとは関係ありません)