2016/02/26

佐野元春#1 1980年冬

1980年にデビューした、佐野元春さんのファーストアルバムのレコーディングに参加する機会に恵まれました。
その時の話です。

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1980年頃、ぼくは浜田省吾さんのバンドの他に、伊藤銀次バンドにも在籍していて、そのメンバーで松原みきさんのバックバンドも掛け持ちしていた。

今度エピックからデビューする、新人アーティストのアレンジを伊藤銀次さんが担当することになって、そのレコーディングにぼくも呼ばれた。そのアーティストが佐野元春さんだった。

レコーディングは1980年2月29日の夜8時から、新宿のテイクワン・スタジオで行われた。
ぼくはちょうどその時、軽井沢で行われていた浜田省吾さんの合宿リハーサルに行っていて、佐野元春さんのレコーディングには、同じくレコーディングに参加することになった、浜田さんのバンドのベースの岡嶋ブンちゃんと二人で軽井沢から電車に乗って行った。

テイクワン・スタジオに着くとすぐに佐野元春さんを紹介された。
初対面の佐野さんは、度の強いメガネをかけているちょっと物静かな雰囲気の方だった。しかしこの物静かという印象は、レコーディングが始まった途端に吹き飛んだ。

早速一曲目のレコーディングが始まった。アレンジを担当する銀次さんが書いてきたスコアを元に試しに一回演奏してみた。するとそれまで静かだった佐野さんが、突然ボーカル用の狭いブースの中で飛び跳ねながら歌い出した。

普通レコーディングというのは、ボーカリストの場合はまず仮歌をバンドの仮演奏と一緒に歌い、後はその時に録音した仮歌をガイドに、あとはバンドだけが良いテイクが録れるまで演奏するという方式が一般的だ。

なのでボーカリストは本番の歌入れの日が来るまでは、その仮歌以外はほとんど歌うことはない。しかし佐野さんはバンドが何回もテイクを重ねるたびに一緒に歌うのだ。しかも全力で。これにはぼくもびっくりした。というかバンドのメンバー全員が目を丸くした。

全身エネルギーの塊のような気迫のこもった佐野さんの姿を見て、その場にいたミュージシャン全員が影響を受けないわけがない。
みんな佐野さんのパフォーマンスに触発されて渾身の演奏をした。おかげで素晴らしいテイクを録ることが出来た。

この日レコーディングしたのは「Please Don't Tell Me A Lie」と「Back To The Street」の二曲。

当時のメモによると、3月7日に新大久保のフリーダムスタジオで別の曲のダビングが行われ、ぼくもアコースティックピアノとハモンドオルガンで参加している。

ところで佐野元春さんのデビューアルバム「Back To The Street」には、何故か参加ミュージシャンのクレジットが無い。
ちなみに伊藤銀次さんアレンジのレコーディングメンバーは以下の通り。

ドラムス:上原“ユカリ”裕
ベース:岡嶋善文
ギター:伊藤銀次
ピアノ&ハモンドオルガン:板倉雅一

ドラムのユカリさんは、山下達郎さん、大貫妙子さんが在籍していた元シュガーベイブのドラマー。
ぼくは憧れのドラマーだった方と一緒に演奏出来て、とても嬉しくとても興奮したことを覚えている。

今あらためて佐野元春さんのデビューアルバムを聞き返してみると、その有り余るパワーと勢いと才能に圧倒される。

佐野元春さんの鮮烈なデビューアルバム「Back To The Street」は、今でもとても好きなアルバムだ。