2016/03/18

熱海 #2

 熱海Part.2です。

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さっそくぼく達はエレベーターで地下にあるダンスホールのような、結構広い何百人も収容出来るような所に連れて行かれた。ここは夕食を終えた宿泊客達が踊りに来たり、ショーを見に来たりする所らしい。
入り口の看板を見ると、ナントカダンシングチームのレビューとか書いてある。

会場の正面に大きなステージがあった。立派な照明設備もあった。「へぇ〜、僕達もあんな大きな舞台の上で演奏するんだぁ、スゲーなぁ〜。」と感心していたら、バンマスにホールの隅の薄暗い場所に連れて行かれた。するとそこには猫の額ほどのステージがあった。もしや、ここで演奏するの?
するとバンマスから「ここが俺らのステージだから。ショーとショーの合間に30分ずつ演奏するからな。」そうか、やっと何をやるのかがわかった。僕達は場つなぎのダンスバンドみたいなもんなんだ。

「じゃぁ、まだ誰もいないけど、ちょっと音合わせでもしてみるか。オレが赤本の曲の頭に付いている番号を言うから、その曲のイントロの音譜を板倉が弾いて。まずは325番の曲。」ヤマハの赤いコンボオルガンの前に座ってあわてて赤本のページをめくる。
それにしても情けないぐらいにチープな音のするオルガンである。

325番…325番…ようやく演奏する曲を見つけると、確かに曲のイントロのフレーズが音符で書かれている。
と言っても、初見でフレーズなんて弾いたことがないぼくは途方に暮れるばかり。
Sくんのドラムのフィルから曲のイントロに入っても、いっこうにフレーズを弾き出せないぼくにバンマスが言った。

「おまえ、もしかして初見効かないの?」「はい、すみません、、。」「しょ〜がねぇなぁ〜、じゃぁさ、慣れるまでオレがイントロ弾くからさ、おまえはバッキングやって。」「はい、、、。」ちなみにバンマスの担当はエレキギターである。

今思えば、ぼくはこのときにクビになっていても全然おかしくないシチュエーションだっのだが、何故かぼくはクビにならずに済んだ。
代わりのキーボーディストがいなかったからか、もしくは他の理由からだったかもしれないが、あのときのバンマスの情けがなかったら、ひょっとしたらぼくは、その先違う人生を歩んでいたかもしれない。

実はオルガンを弾くのも、この時がほぼ初めてであった。
熱海ではバンマス所有のオルガンを使わせてもらった。ヤマハのYC-10というコンボオルガンだった。
オルガンの弾き方もよく分からず、初見も出来ず。怖いモノ知らずとはこのことである。
しかもスペースの都合上、エレキベースとオルガンをひとつのアンプで鳴らすという泣きたくなるような無茶苦茶さ。よくぞまぁアンプが壊れなかったモンだ。

訳も分からぬまま音合わせを終え一旦部屋に戻り、冷や汗を拭っているとバンマスがみんなに言った。
「一回目のステージはメインのショーの合間の8時からだから。7時30分に着替えて一階のホールに行くからな。」あのう、「ん?何、板倉。」「ハラ減ったんですけど〜。」「あぁ、メシね。メシは従業員食堂で食えっから。一応晩飯は6時からだけど、手が空いたときに食って。」「代金はどうすればいいんすか?」「金はオレがまとめて精算して、ギャラから引いとくから。」「そうっすか。」

建物の一階裏手にある従業員食堂に行くと、そこには今夜ショーに出演する人たちがすでに食事中だった。
派手な化粧をしたダンサーの女の人達や、かつらをかぶった役者のおじさん達がいた。
かつらのおじさん達は、股旅モノの時代劇を毎晩演じている劇団の人達だった。

かつらのおじさんとダンサーのお姉さん?(だと思う)は、テレビで中継されている巨人戦に夢中だった。
ぼくとSくんは隅っこのほうで、あまり美味しくないメシをお腹に流し込んだ。

メシを食ったぼくとSくんは、いよいよ迫り来る初ステージに向けて、バンマスから支給された衣装に着替えようとして、手渡された服を見てアゼンとした。まるでリオのカーニバルのような、胸元と袖にフリフリの付いた衣装である。しかも真っ赤な色のシャツに白いジーパン。ジーンズではなくジーパン。

ハ・ズ・カ・シ・イ〜〜!!

恥ずかしさで衣装と同じぐらい顔を赤くしたぼくは、その格好でエレベーターに乗って一階のホールに向かった。

ホールの中に入るとすでに大音響の中レビューが始まっていて、アタマに観葉植物のフェニックス(注1)のようなものをつけたダンサー達が、艶めかしいフリで踊っている。
やがてフェニックスの後に股旅モノの時代劇が始まった。いわゆる勧善懲悪物語である。
物語がハッピーエンドで終わると、最後に股旅一座とフェニックスのオネーサン(オバさん??)達も横並びに整列して、手に鈴のようなものを持って踊っていた。

そこで毎晩流れる曲が決まっていて、歌詞を聞いているとどうやら静観荘のオリジナルソングらしい。

『静観荘へならドンと来い〜、デカいレジャーの湯煙りがぁ〜〜♪』

ぼくは一発でこの曲を覚えてしまった。
今でも歌えるぐらいインパクトのある曲だった。

何か面白いな〜、フ〜ムフム、などと感心して見ていると、間もなく我々の出番が近づいてきた。

「今日は初めてだから、無難な曲でいくからな。後はお客のノリを見ながら曲を決めていくから。」「あのう、曲を決めてくって本番中にですか。」「そうだよ、ほかにいつ決めるの?」
「ですけど、どうやってきめるんですか?」「演奏している曲のコーダ(注2)の部分にきたら、オレが次の曲の番号を言うからコーダの部分を演奏しながら次の曲のページめくっといて。」
「エッ!?」ぼくとSくんは同時に叫んだ。「ドラムはどうすればいいんですか?」「ドラムはオレが次の曲のビートを言うから、アタマはそのビートのフィル(注3)で入ってみんなはフィル聞いたら曲アタマな。」

、、、、、。ぼくとSくんは沈黙した。

何だかよく分からないけどやるしかない。
ぼく達の出番はもうすぐそこまで迫って来ていた。

  • 注1) 80年代に流行した観葉植物。一時期ぼくの部屋にも生息していた。
  • 注2) 曲の終わりにさしかかったあたりのことを指す。
  • (注3) 曲の始まりのきっかけのフレーズ。この場合はドラムのフレーズを指す。ドンタカタッタとかいう感じ。