2016/03/19

甲斐バンド#3 煙草とピアノ

甲斐バンドのレコーディングで大失態を演じたことがありました。
そんなお話を。

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1978年か79年のことだったと思う。
その日ぼくは甲斐バンドのレコーディングで、溜池にあった東芝EMIの第一スタジオにいた。何の曲かは忘れたが、アコースティックピアノを弾く曲のレコーディングだった。

当時21か22才だったぼくはかなりのヘビースモーカーで、特にレコーディングになると緊張からか煙草を吸う本数が増えた。
その日もグランドピアノの譜面立ての横に灰皿を置いて、ヘッドホンを付けたまま何本も煙草を吸いながらレコーディングに臨んでいた。

東芝EMIのスタジオのグランドピアノは、フルコンと言って一番長いサイズのピアノが設置されている。
素晴らしく良い音のするピアノで、そのリッチな響きにその日もぼくは上機嫌だった。

ほどなくレコーディングの本番が始まった。ヘッドホン越しに聞こえてくるディレクターのキューの合図で、16チャンネルのアナログテープレコーダーが音を立てて回り始める。
ぼくは煙草に火を付けたまま、灰皿に火の付いた煙草を置いてピアノを弾き始めた。
演奏が始まってしばらくすると、ピアノを弾いている振動で煙草が灰皿からするすると転がり落ちた。
「あっ!!」と思ったのもつかの間、火の付いた煙草はそのままピアノの中に落ちて行った。

「うわぁぁぁ〜〜〜!!」
レコーディング本番中の演奏中にもかかわらず、ぼくはパニックになって慌てて落ちた煙草を拾おうとした。
が、無情にも煙草はそのままピアノの弦の下に潜り込んで、フレームやらアクションハンマーやらが複雑に入り組んでいる部分の下に転がり落ちてしまった。

最早レコーディングどころではない。
曲の途中にも関わらず演奏を止めて、ぼくはブースの中にいるスタッフに助けを求めた。
スタジオの中にいた甲斐バンドのメンバーも、何事かと心配そうに寄って来た。

どうやら煙草はピアノの鍵盤の裏の下の、奥深い部分に落下してしまったようで、中から煙草の煙だけが不気味に上がってくる。
こうなるともう手では取り出すことが出来ないため、スタジオのスタッフが慌ててピアノの分解を始めた。

ぼくはその場からマッハ3のスピードで逃げ出したくなる衝動を懸命に押さえて、みんなに「すみませんっ!すみませんっ!」と何度も頭を下げるしかなかった。

スタジオのスタッフがグランドピアノの譜面台を外し、白と黒の鍵盤の端にある拍子木のようなものを取ると、あっけなく鍵盤部分が外れた。そのまま鍵盤部分を手前に引くと、ようやく底板の部分に落ちてる煙草を発見した。
煙草が落ちていた部分は無惨にも茶色く焦げていた。

まだ煙草の火は点いていたため、最悪の場合、
ピアノ炎上(ピアノは大部分が木で出来ている)→ピアノ使用不能→ピアノ買い替え→板倉弁償→板倉弁償不能→板倉終了。
と言うシナリオも有り得ただけに、本当に生きた心地がしなかった。

何でもスタジオの方の話によると、1,500万円のグランドピアノだったそうな。
事なきを得たから(あまり事なきでもないが)良かったようなものの、後からこってりとお灸を据えられた。
それからは二度とピアノの上に、灰皿を置かなくなったことは言うまでもない(笑)

以上、もしかしたらぼくは向こう何年間か、東芝EMIスタジオの下僕として仕えるハメに陥ったかもしれなかったという、ウソのようなホントの話でした。

甲斐バンドレコーディング@箱根Rockwell Studio.1978