2016/07/11

浜田省吾 #27 『BIG BOY BLUES/SWEET LITTLE DARLIN'』

浜田省吾19枚目のシングル『BIG BOY BLUES』が1985年12月8日に発売になりました。
今回はその話を。

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浜田省吾のクリスマスミニアルバム『CLUB SNOWBOUND』のトラックダウンを10月14日、15日の二日間で終えた直後の10月19日に、ぼく達はシングル『BIG BOY BLUES』のレコーディングのため、信濃町のソニーのレコーディングスタジオに集合した。

今回のレコーディングメンバーも『CLUB SNOWBOUND』の時と同じ。
この日のリズム録りのメンバーは

ドラムス:滝本 季延
ベース:江澤 宏明
ギター:町支 寛二
ピアノ:板倉 雅一

夕方5時30分から音楽雑誌「GB」の取材を浜田さんと町支さんとぼくの三人で受けた後の、夜の7時からリズム録りは始まった。
今日一日で二曲のリズムを録る予定になっていた。

この日のスタジオは2スタと呼ばれる第2スタジオ。信濃町ソニー、通称”シナソ”には第1〜第3スタジオまで三つのスタジオがあって、第1スタジオが一番大きなスタジオだった。
第2スタジオはやや小ぶりなスタジオだが、バンドが入ってレコーディングするには何ら問題の無い広さだった。

レコーディングする一曲は『BIG BOY BLUES』、もう一曲はB面予定曲の『SWEET LITTLE DARLIN'』。アレンジは二曲ともぼくが担当した。
BIG BOY BLUESはアップテンポのロックチューンで、浜田さんとは事前に軽く打ち合わせをしただけだったが、意思の疎通は出来ていたので、今回はプリプロは行わないでレコーディングに臨んだ。
冒頭はギターの8ビートのカッティングから始まり、途中からピアノに導かれるようにリズムがなだれ込んでくるようなアレンジにした。
BIG BOY BLUESのリズム録りは割とスムーズに終える事が出来た。

もう一曲のSWEET LITTLE DARLIN'はブルージーなR&Bのバラード。
ぼくは浜田さんからいただいたこの曲のデモテープを聴いた瞬間から、この三連の切ないバラードが大好きになった。
アレンジするにあたって浜田さんからのリクエストは、「生のストリングスとブラスを入れて欲しい」。弦のアレンジはぼく、ブラスのアレンジは古村敏比古くんが担当することになった。

ベーシックなアレンジはピアノの三連符のアルペジオから始まり、所々経過音で洒落たコードトーンやブレイクを挿入し、間奏では大胆に転調してクロマティック・ハープにソロを取ってもらうという構成にした。
SWEET LITTLE DARLIN'のリズム録りも順調に終わり、ぼくが弾くフェンダー・ローズピアノを録ってこの日のレコーディングは深夜に終了した。

20日は六本木のソニースタジオでギターとコーラスのダビング。
ギターは法田勇虫さん。BIG BOY BLUESの間奏の部分でのスリリングでトリッキーなギターソロに一同大喜びした。
SWEET LITTLE DARLIN'でもブルージーなギターソロを弾いて貰った。
そしてこの日はぼくの29才の誕生日でもあった。スタジオでみんなに祝福してもらって幸せだった。

21日は場所を麹町のサウンドイン・スタジオに移して、シンセサイザーのダビング。
サウンドイン・スタジオは日本テレビ別館の6階にあるスタジオで、日テレと言う場所柄、ビルの中に入るのに非常に面倒なスタジオでもあった。

シンセのオペレーターは、フクちゃんこと福田裕彦さんにお願いした。
フクちゃんはヤマハのシンセサイザー「DX7」のオーソリティで、フクちゃんと作曲家の生方則孝さんの共同名義で開発した、DX7用音色カートリッジ「生福」は当時大きな話題となった。
フクちゃんはプレイヤーとしては勿論のこと、シンセのプログラマーとしても名を馳せていた。

フクちゃんに作ってもらった音色をぼくが演奏するという、ちょっと珍しい組み合わせではあったが、非常にクリエイティブなコラボレーションになった。
BIG BOY BLUESのイントロ部分には、当時流行っていたオケヒット(オーケストラル・ヒットの略。オーケストラが全員で同時に音を鳴らした時のインパクトある音をサンプリングしたもの)の音を入れた。

後日、生のストリングスとブラスのダビングが行われた。
ストリングスの編成は「6.4.2.2」と呼ばれるもので、第1バイオリンが6名、第2バイオリンが4名、ビオラが2名、チェロが2名で構成される総勢14名からなる、ポップスやロックのレコーディングでは一般的な編成だった。

ぼくは生のストリングスのアレンジを手がけるのは初めてだったので、譜面を書いている時から緊張していた。
ストリングスの譜面は楽器によって調号を変えて書かなければならないのと、独特の和音の積み重ね方をしないと心地よい弦の響きが得られないので、そんな事ををかなりナーバスになりながら考えた。

SWEET LITTLE DARLIN'のストリングス録音のために、”シナソ”にストリングスの方々が続々とやって来た。
ぼくの書いたストリングスの譜面は写譜屋さんの手によって清書されて、綺麗にパートごとの譜面となって並んでいた。

広いスタジオの中で各々のポジションについたストリングスの方々が、ケースから楽器を取り出しチューニングを始めた。ぼくはスタジオの中で譜面の説明をしながら生の弦を響きを聴いていた。
「生の弦はスゲぇ良い音だなぁ〜!」ぼくは緊張を悟られないよう平然を装いながらもとても興奮していた。

この日スタジオ入りしたストリングスの方々は、年齢層も幅広く女性の方も何人かいた。
おそらくアカデミックな教育を受けて来たであろうストリングスの面々を前にして、クラシックとは対極のロックミュージックをやっているぼくが書いた譜面は果たして通用するのか、音を出してみるまではとても不安だった。

試しに練習を兼ねて、先日レコーディングしたオケに合わせてストリングスの方達に弾いてもらった。
ぼくは自分がアレンジした譜面に間違いが無いか緊張しながら聴いていた。すると一カ所響きが濁る場所があった。慌てて譜面を確認してみると、第2バイオリンの音が他の音とぶつかっている箇所があった。どうやら写譜ミスのようだった。
すぐさま譜面を訂正して、その箇所を弾いてもらうと今度は大丈夫だった。

一度レコーディングしてみて細かいニュアンス等の修正を確認し、本番のレコーディングを開始した。今度は素晴らしい響きのアンサンブルだった。レコーディングは二時間程で終了した。

初めての弦アレンジのプレッシャーと緊張から解放されたぼくは、ストリングス・マスターの元へ駆け寄りお礼を言った。「素晴らしい演奏をありがとうございました。」するとストリングス・マスターの友田さんが労いの言葉をかけてくれた。「とても良いアレンジで気持ちよく演奏出来ましたよ。」

別の日には古村くんのアレンジでブラスのダビングが行われた。
ぼくは同席出来なかったのだが、後日聴かせてもらったブラスの演奏はとても格好良い仕上がりだった。

シングル『BIG BOY BLUES/SWEET LITTLE DARLIN'』は、TBSドラマ『華やかな誤算』の主題歌となってリリースされると、オリコンチャート14位を記録するヒットとなった。
B面の『SWEET LITTLE DARLIN'』も劇中歌としてドラマの中で流れた。
SWEET LITTLE DARLIN'は、ドラマの中で女優の佐倉しおりさんが演じる、中学二年生の楠田康子の登場するシーンによく流れることが決まっていたため、ぼく達はレコーディングの最中から、通称「しおりのテーマ」と呼んでいた。

翌年、CBSソニー主催のパーティが東京・銀座の老舗フランス料理店「マキシム・ド・パリ」で行われた。アルバム「J.BOY」のレコーディングの最中だった。
このパーティはCBSソニー・レコードが主催したもので、1985年の同社のヒット曲に関わった人達が招待されていた。数あるヒット曲の中に『BIG BOY BLUES』も選ばれていた。
ぼくは「ゴールデン編曲大賞」という賞を受賞したということで出席することとなった。

出席者は豪華な顔ぶれで、ほとんどの人達がドレスやタキシードで着飾っていた。
ぼく達の隣のテーブルは杉真理さんのご一行様で、やはりみんなスーツやタキシードを着ていた。
そこにひときわ異彩を放っている集団が一組いた。ぼく達浜田省吾の一行だった。

ぼく達はタキシードを着ているものは一人もおらず、みんなアロハにGパンやシャツの上にジャケットを羽織っただけのようなラフな格好だった。
ぼくはパーティということで一応ジャケットは着ていったのだが、それでも他の面々に比べたらとてもカジュアルな格好だった。

ぼくは隣の席の水谷公生さんと一緒にパーティの模様を楽しんでいた。
次々と受賞者の名前が呼ばれて行く。やがて浜田省吾さんの番になった。そしてぼくの名前も呼ばれ、ぼくはゴールド・ディスクと副賞をいただいた。音楽人生の中で初めて貰った賞だった。

いただいたゴールドディスクは、片面しかプレスされていないとのことだった。どうやら裏をひっくり返してもB面のSWEET LITTLE DARLIN'は入っていないらしい。
そして実際にプレイヤーに乗せて針を落とせば、ちゃんと再生されるとのことだったが、勿論そんなことを一度もしたことは無い。

BIG BOY BLUESのアナログ盤。

BIG BOY BLUESのゴールドディスク。