2016/10/21

浜田省吾 #31 「CLUB SURFBOUND」

1987年6月28日に発売された浜田省吾さんのミニアルバム「CLUB SURFBOUND」のレコーディングの話です。

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1986年4月6日、沖縄県那覇市民会館でのJ.BOYツアーの最終公演を終えた浜田省吾一行は、次の日に恩納村のプライベートビーチを貸し切って、総勢数十名での打ち上げパーティを行った。
長い長いツアーが終わった安堵感から、この日のパーティはとても和やかで楽しいものとなった。

東京に戻ったぼくは、すぐに浜田省吾のニューアルバムのための曲作りにとりかかった。
今回のアルバムは夏をテーマにしたリゾートアルバムで、85年に出たクリスマスアルバム「CLUB SNOWBOUND」の続編とも言えるアルバムだった。
そしてバンドのメンバーが各自一曲ずつ曲を書いて、それに浜田さんが詞を書くという画期的な試みを行うことになった。

ぼくは意気揚々と作曲を始めた。
しかしなかなか納得の行く曲が出来なくて苦しんだ。
いつもはもっとスムーズに曲が出来るのだが、今回は浜田省吾のアルバムに収録される曲ということで、特別なプレッシャーを感じていた。

曲の断片を作っては捨てる作業を何度も繰り返した。
それでもやっとのことで何とか納得の行く曲が出来たので、早速浜田さんに聴いてもらうことにした。
ちなみに今回のアルバムのプロデューサーは、J.BOYの時と同じく浜田省吾だった。

ぼくが作った曲を聴いた浜田さんの感想は、サビのメロディが今一つ弱いのでは?ということだった。
もっとゆったりとした端正なメロディのほうが、ぼくが作った曲には合うということで、ぼくはサビのメロディを作り直すことにした。

何パターンかサビのメロディを作ってはみるものの、どうもいまいちピンと来ない。
そこでぼくは何かヒントになるのではと思い、敬愛するミュージシャンでもあるデビッド・フォスターのビデオを見ることにした。
ビデオの中にデビッド・フォスターが作曲をするシーンがあった。
デビッド・フォスターがカナダのバンクーバーの街を車を運転しながら、カセットテープレコーダーを片手に鼻歌で曲を録音している映像だった。

「これだっ!!」と思い、早速ぼくはデビッド・フォスターの真似をして、車にテレコとポータブル鍵盤を積み込んで真夜中の駒沢公園近辺に繰り出した。
駒沢公園の周辺をテレコ片手に、鼻歌を口ずさみながら車に乗ってぐるぐると周回してみたものの、一向にメロディが出てくる気配は無い。結局明け方までトライしてみたものの、いいメロディは出来なかった。「デビッド・フォスターの嘘つき〜!」ぼくは一人で毒づいていた(笑)

何日か経ってやっと自分でも納得の行くメロディが出来た。
浜田さんに聴いてもらうと今度はOKだった。ホッとした。
メロディが出来たのも束の間、すぐに曲のアレンジに取りかかった。
ちなみにぼくの作った曲の仮タイトルは「Itakura Ballad」だった。

4月23日、千駄ヶ谷にあるビクターレコードの301スタジオで、ニューアルバムのレコーディング第一弾が行われた。この日はアルバム先駆けてリリース予定のシングル曲のレコーディングだった。曲は「二人の夏」。愛奴のデビュー曲のリメイクだった。
リメイク版のアレンジは町支さん。19時から始まったレコーディングは順調に進んで行った。

この日のレコーディングメンバーは

ドラムス:高橋伸之
ベース:江澤宏明
ギター:町支寛二
ピアノ:板倉雅一

いつものお馴染みのメンバーだった。

4月26日、19時から信濃町ソニー1スタジオで二人の夏のダビング作業が行われた。
一週間後の5月3日〜5日、横須賀の観音崎マリンスタジオで本格的にレコーディングが始まった。
ただし浜田省吾さんは私事で帰郷していたため、このレコーディングには参加することが出来ず、ぼく達バンドのメンバーだけでリズムトラックのレコーディングを行うことになった。

観音崎マリンスタジオは観音崎京急ホテルに隣接したリゾートスタジオ。すぐ目の前が海で東京湾が一望出来る素晴らしいロケーションのスタジオだった。
ぼく達バンドのメンバーは、レコーディングの前日に観音崎入りした。宿泊は観音崎京急ホテル。
ホテルからの景色もスタジオと同じく素晴らしくて、プライベートでも訪れたいような場所だった。

5月4日と5日でリズム録りする予定の曲は、江澤くん作曲のミディアムテンポのナンバー、町支さん作曲の軽快なシャッフルのナンバー、古村くん作曲のアップテンポのナンバー、ぼくが作曲のバラードナンバー、浜田さん作曲のアップテンポのナンバーの5曲だった。

浜田さん不在の中、レコーディングは始まった。
スタジオにいるのはバンドメンバーと、ロード&スカイのスタッフ数名、楽器担当のローディ数名、ディレクターの須藤晃さん、エンジニアの助川健さん、カメラマンの内藤順司さんの十数名。
それぞれの曲のテンポを慎重に確認しながら、レコーディングは進んでいった。
観音崎マリンスタジオはピアノのブース(個室のような仕切り)が無く、レコーディングの際に他の楽器の音がピアノを録音するマイクに被ってしまうため、アコースティックピアノは仮で弾いておいて、後日東京のスタジオで差し替えることになった。
ぼくは出来ることならバンドのメンバーと同時にピアノを録音したかったので、これには少しがっかりした。

マリンスタジオでは朝と夜の二回、スタジオスタッフ手作りの食事が提供された。これがとても美味しくて、ぼくはレコーディングの合間の食事がとても楽しみ だった。しかし滞在している間中、ほぼ朝までレコーディングが続いたので、朝と夜の食事の区別がよく分からなくなってしまった(笑)

5日の昼過ぎにリズム録りを終えたぼくはスタジオを後にして、世田谷区三宿の人見記念講堂で行われたデビット・フォスターとリー・リトナーのコンサートを観に行った。
人見記念講堂は当時住んでいた家から歩いて数分のところだったので、ぼくは一旦帰宅してから出かけた。
この日のコンサートはアメリカのビールメーカー、クアーズが冠スポンサーに付いていて、会場の外ではクアーズビールが販売されていた。
ゴールデンウィークの最中、幸い天気も良くてアメリカンな雰囲気の中でのコンサートは最高だった。

5月8日〜20日まで、集中的にダビング作業が行われた。
8日は信濃町ソニースタジオで江澤くんの曲のダビング、9日は信濃町で梁くんの曲のリズム録り、10日は六本木ソニースタジオでぼくの曲のダビング、11 日と12日は信濃町でシンセのダビング、14日は六本木セディックスタジオで町支さんのギターダビング、16日と17日は浜田さんのボーカル録り、18日 はビクタースタジオでギターの土方さんにぼくの曲を弾いてもらった。
そして20日〜23日の間にトラックダウン作業を行い、アルバムは完成した。
息つく間もない日々だった。

アルバム「CLUB SURFBOUND」は全7曲入りのミニアルバムで、作曲はバンドのメンバーが一曲ずつと浜田さんが二曲、作詞は全曲浜田さんが担当した。

江澤くん作曲の、後に「プールサイド」とタイトルが付くナンバーは、ちょっとブラコンっぽい(ブラックコンテンポラリー)サウンドで、ちょうど当時流行っ ていたクール&ザ・ギャングのようなテイストの、独特のグルーブ感が難しい曲だった。江澤くんの書いて来た譜面は、ピアノの和音の積み重ね方も指定して あって、彼のこだわりが譜面を通して感じられた。
ドラムはリズムマシンによる打ち込みで、シンバル類を高橋くんが叩いた。
あとからスネアの音色をサンプリングして足したりもした。

町支さん作曲の、後に「Gear Up409」となるナンバーは、タイトルからも分かるようにビーチ・ボーイズテイスト満載の楽しい曲で、エンディングにはビーチ・ボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」のフレーズもパロディで挿入された。

古村くん作曲の、後に「Hot Summer Night」と名付けられたナンバーは、いかにも古村くんらしい骨太のロックな曲で、古村くん本人もちょっとだけ曲中でボーカルを披露している。

梁くん作曲の、後に「曳航」とタイトルが付くナンバーは、梁くんのコンテンポラリーなテイストが良く出たお洒落な曲で、浜田さんもボーカルをオクターブにして二本入れる等、普段とはちがったアプローチをしていて大人な雰囲気を醸し出していた。

「二人の夏」と「Little Sufer Girl」は浜田さん作詞作曲のナンバー。二曲ともビーチボーイズへのオマージュ。「二人の夏」は愛奴のデビュー曲のリメイクで、ぼくも当時からとても好きな曲だったので、レコーディングしていてとても嬉しかった。

ぼくが作曲の「Harbor Lights」と名付けられたナンバーは、当時傾倒していたデビッド・フォスターやマイケル・オマーティアン等のLAサウンドを下敷きにした曲。
江澤くんの弾くシンセベースが素晴らしい。コーラスはぼくと江澤くん、町支さんの三人で歌った。
他のメンバーの曲はそれぞれ作者を彷彿とさせる歌詞だったが、ぼくの曲だけは作者は歌の中に全然登場していなくて、浜田さんが書いた詞を読んで「この曲の登場人物は全然オレじゃない」と思った(笑)

浜田省吾のアルバム『CLUB SURFBOUND』は1987年6月28日に発売されると、アルバムチャートの一位を獲得した。
同時に発売された、85年のミニアルバム『CLUB SNOWBOUND』がカップリングされたCD『CLUB SURF&SNOWBOUND』も二位になり、チャートの一位と二位を独占した。


CLUB SURFBOUNDのレコーディング風景 at 観音崎マリンスタジオ。