2017/04/01

浜田省吾 #34 「A PLACE IN THE SUN 1988.8.20 渚園」

1988(昭和63)年8月20日、静岡県の浜名湖に浮かぶ弁天島のリゾート地「渚園」に、5万人とも5万7千人と言われた観衆を集めて行われた浜田省吾さんの三回目の野外イベント「A PLACE IN THE SUN」が開催されました。今回はその時の話を。

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1988年7月16日「ON THE ROAD '88 "FATHER'S SON"」の前半戦48本のツアーが終了した。仙台から帰京したぼくは、伊豆の下田で短い休暇を取った。

8月2日から17日まで断続的に約二週間、目黒のヤマハスタジオで「A PALCE IN THE SUN」のリハーサルが行われた。
バンドメンバーはThe Fuseの7人+ギターに水谷公生、パーカッションにペッカーの計9人。

スタジオに行くと早速コンサートで演奏する約30曲の曲のリストが渡された。
当日演奏する予定の曲は以下の通りだった。

1.路地裏の少年
2.終りなき疾走
3.モダンガール
4.バックシートラブ
5.ラストショー
6.HELLO ROCK&ROLL CITY
7.いつかもうすぐ
8.愛のかけひき
9.HOT SUMMER NIGHT (w/中村あゆみ)
10.街角の天使 (w/中村あゆみ)
11.WHAT'S THE MATTER,BABY?(w/中村あゆみ)
12.EDGE OF THE KNIFE
13.HARBOR LIGHTS
14.二人の夏
15.我は海の子(インストゥルメンタル)〜生まれたところを遠く離れて
16.MONEY
17.DADDY'S TOWN
18.DANCE
19.丘の上の愛
20.OCEAN BEAUTY〜マイホームタウン
21.東京
22.明日なき世代
23.A NEW STYLE WAR
24.僕と彼女と週末に
25.愛の世代の前に

アンコール
26.BLOOD LINE
27.J.BOY
28.DARKNESS IN THE HEART
29.RIVER OF TEARS
30.ラストダンス

浜田省吾初期の名曲から、最新アルバム「Farther's Son」までの中からの選りすぐった選曲だった。
ぼく達は二週間の間、昼過ぎから夜までみっちりリハーサルを重ねた。
終始リラックスしたムードでのリハーサルだったが、ぼくは浜田さんがいつもよりも少しナーバスになっているのを感じていた。

リハーサルの最中、ぼくはオーダーしていた近視用の眼鏡を受け取りに行った。仙台でのコンサートの最中に視力が落ちているのを実感して、眼鏡を作ることを決めた。初めての度付きの眼鏡だった。
リハーサルの間は度付きのレンズに慣れるために眼鏡をかけながら行っていたが、本番は眼鏡はかけないことにした。まだ眼鏡をかけてステージをやることに不安があった。

ぼくは本番二日前の8月18日の夜に車で浜松入りした。東名高速は土砂降りの雨だった。途中追い越して行くトラックの水しぶきが自分の車のフロントガラスにあたり、前方の視界が全く遮られるほどの豪雨だった。ぼくは慎重に夜の高速を運転をして、深夜に宿泊先であるグランドホテル浜松に到着した。

翌日8月19日は実際に渚園のライブ会場でのリハーサルだった。ホテルから会場である渚園までは、チャーターしたバスに乗って行った。小一時間程で渚園に到着した。渚園までは思っていたよりも遠かった。

リハーサルには今回ゲスト出演する中村あゆみも参加した。特に彼女が参加する三曲は入念にリハーサルを繰り返した。
当初は本番と同じ構成ですべての曲を演奏する予定だったが、日も暮れて暗くなって来た頃からから雨が降りだして来て、予定されていたメニューをこなすことが出来ずにリハーサルは途中で終了した。明日の本番に少し不安を残すこととなった。

明けて8月20日、いよいよコンサート当日がやってきた。前日の晩は緊張で眠れないかと思いきや、たっぷり7時間ぐらい眠ることが出来て体調も万全で当日を迎えることが出来た。
ぼくの記憶では当日も少しだけリハーサルをやったような気がするのだが、はっきりとは覚えていない。

この日は前日までの雨も上がり、幸いなことに天候にも恵まれた。
ぼく達はコンサート開始時刻になるまで、舞台裏に設置されたプレハブ作りの簡易楽屋で待機した。
プレハブ小屋の中はエアコンも効いていてそれなりに快適だった。

巨大なステージに置かれている楽器には、雨の場合を考慮してビニールシートがかぶせてあった。
特にぼくのキーボード群はビニールシートだらけで、ちょっと弾きにくくもあった。
ステージは客席に向かって緩やかなスロープになっていて、気をつけて歩かないと躓いてしまいそうだった。

本番前に楽屋で髪型を整えようとしてあれこれやっていたら、次第にぼくのアタマはヘンな髪型になってしまい、最終的にリーゼントのようになってしまった。
慌てて髪型を直そうとしていたら、舞台監督からステージに行くように促されて、ぼくはヘンな髪型のまま本番を迎えることになってしまった。

やがて夕刻になりコンサートが始まった。開演時刻は17時を少し過ぎていたと思う。
ぼく達バンドのメンバーと浜田さんは、巨大な白いテントのように覆われた幕の中でそれぞれのポジションに付き待機した。
テントの中は思ったよりも蒸し暑かった。

アカペラの「A PLACE IN THE SUN」が終わり、巨大なテントのような幕が解き放たれた瞬間、ぼくの目に飛び込んで来たのはもの凄い数の人、人、人。
今まで見たこともないようなたくさんの人が広大な敷地を埋め尽くしていた。
5万人とも5万7千人とも言われた人の海を目の当たりにしたぼくは、いきなり極度の興奮状態に陥ってしまった。
ドラムの高橋くんも、もの凄い人の数を見てハイテンションになり、フルパワーでドラミングをしてしまい、一曲目ですべてのエネルギーを使い果たしそうになってアセった、と本番後に語っていた。

一曲目の「路地裏の少年 」を演奏しながら、興奮を抑えきれないそんなぼくの様子が「ON THE ROAD FILMS」に収録されている。
ぼくは「凄い!凄いぜ!まるで群衆が麦畑のようだ!!」と一人口に出して叫んでいた。

残念ながら今となってはコンサートの内容や演奏中の気持ちを思い出すことは殆ど出来ないが、印象に残っているいくつかのことを列記すると、
・ステージから見えた浜名湖と夕日がとても綺麗だったこと。
・本番前も本番中も不思議なくらいリラックスしていられたこと。(ぼくはかなり緊張するほうなのだが、この日はとても良い精神状態で臨めた。)
・アルバム「CLUB SURFBOUND」から「HOT SUMMER NIGHT」と「HARBOR LIGHTS」の二曲を披露したこと。(おそらくこの二曲は、この時以外にはやったことは無いのでは?)
・コンサート終盤の「僕と彼女と週末に」と「愛の世代の前に」の時に、ステージ後方のイントレが開いて、円柱形の原子炉のような物体が現れたこと。(ぼく達は演奏しているので、本番中に実際に見ることは出来なかったが、リハーサルの時に確認していた。)

アンコールの最後の曲の「ラストダンス」が終わり、まだ観客の歓声が鳴り響く中、浜田さんとぼく達バンドのメンバーはステージから降りると、楽屋にも戻らずに衣装のままステージ裏に待機していたバスに飛び乗って会場を後にしていた。楽屋に置いてあったそれぞれの荷物は、スタッフがホテルまで運んでくれていた。
ぼく達はバスの窓からフィナーレを告げる打ち上げ花火を見ながら会場を後にした。
ぼくはバスの中でパーカッションのペッカーさんと固い握手を交わした。
約4時間に及ぶ圧巻のコンサートは幕を閉じた。

ホテルに戻ってシャワーを浴びた後、最上階のレストランで関係者も参加しての簡単な打ち上げが行われた。
ぼく達はまだ興奮醒めやらぬ中、訪れたゲストの方々とそれぞれ談笑を交わして和やかな時を過ごした。
ぼくはこの日も浜松に宿泊する予定でいたのだが、急遽予定を変更して、打ち上げ終了後に車で帰京することにした。

帰り道の途中、深夜の東名高速のサービスエリアに入ったら、そこかしこにこの日のイベントで販売されていたベースボールキャップ被ってタオルを首に巻いた人達がいた。
ぼくはそそくさとサービスエリアを後にした。

明け方近くに帰宅し軽く仮眠を取った後、家の近所を散歩していると、すぐ近くのマンションのベランダに「SHOGO HAMADA A PLACE IN THE SUN」と書かれたタオルが干してあるのが目に飛び込んで来た。ぼくの自宅のすぐ側からもイベントに参加した人がいたことが何だか妙に嬉しかった。

昨夜のイベントの熱気と、汗をたっぷりと吸ったであろうそのタオルは、夏の日の午後の日差しを浴びながら気持ち良さそうに風にたなびいていた。
そのタオルを見ながらぼくは昨日のコンサートのことを思い出していた。
つい昨日のことがすでに遠い過去のことのように思えていた。

ぼくのキーボードにビニールシートが被せてあるのが確認出来る。